社会政策理論とドメスティック・バイオレンス防止法の交錯 - 親密な関係における女性の抑圧についての分析

 女性差別を「女性に対する抑圧」として把握するとき、親密な関係における女性の抑圧としてのドメスティック・バイオレンスは、現代社会政策理論とどのように関わるであろうか。先行研究によれば、ドメスティック・バイオレンス防止法[1]が社会政策に及ぼす影響をめぐる考察が既に発表されている[2]

 湯澤直美は、ドメスティック・バイオレンスが社会問題として認知され、その予防と被害者支援策の推進が国家レベルの政策課題として注目されるようになった原因が、国際的な女性運動の進展の中に求められるべきであると主張している[3]

 かつて利谷信義が日本における女性政策の発展というテーマのもと、1991年の国内行動計画の第一次改定においてその片鱗を見せた男女共同参画社会という観念が、1996年7月に策定された「男女共同参画ビジョン」及びこれに基づいて策定された同年12月の「男女共同参画2000年プラン」[4]によって明確な姿を示したことを肯定的に評価したのは1998年のことであった[5]

 近代の生み出した人権の観念が、すべての人に適用されるものでなかったこと[6]については、「人および市民の権利宣言」(1789年)に対し、オランプ・ド・グージュが、「女性および女性市民の権利宣言」(1791年)[7]を対置したことを取り上げた時点、換言するならば、近代市民革命直後の時点で早くも明らかなこととされていた。第二次大戦以降、普遍的な人権保障を実現するために、1945年の国際連合憲章が戦後世界の人権保障の展望を提示し、1948年の世界人権宣言が人権の体系を明らかにし、1966年の国際人権規約がこれに法的拘束力を付与するという流れ[8]は、女性の人権享有主体性が現実に確立されるのではないかというポジティブな展望を抱かせた。

 1970年代以降の欧米諸国では、女性の人権に対する性差別をなくすための社会政策が強力に推進され、女性の労働参画を促すために様々な施策が実施された。ジェンダーの概念が提唱され、それが十分な市民権を獲得し、常識化するという過程を経て、性差別の射程範囲は拡大されることとなった。しかし、それにもかかわらず、家庭における女性の抑圧という問題は、その範囲の中になかなか届かなかったのだ[9]

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 ドメスティック・バイオレンス防止法が日本で制定されたのは、2001年のことだった。中里見博は次のようにいう。

 「家族」の中の暴力、とくに夫による妻に対する暴力(ドメスティック・バイオレンス、DV)は、永らく犯罪ではなかった。つい10年前まで、DVは「個人的な問題」、「公的な関心・介入・支援が排斥されるべき「私的(プライベート)な問題」であって、男女の間のあからさまな暴力的で支配的な行為の一形態とはみなされていなかった。ある社会学者は、DVのまかり通ってきた家族を「無法地帯」と表現したが、家族は、個人の自由と平等に基礎づけられた市民法秩序の範囲外にあった。企業内で労働者に不当な人権侵害が横行している実態を指弾して、「民主主義は工場の前で立ち止まる」というスローガンが唱えられてきたが、これを倣っていえば、「男女平等は家族の前で立ち止まる」のが実態であった」[10]

 中里見が適切に指摘しているように、日本でのドメスティック・バイオレンス法制定による社会政策[11]の準備については、たしかに遅きに失したことは否定できない。しかし、ともかくも実定法として顕現したこの女性差別に対する社会政策の有効性を読み解き、実践的な観点から、ドメスティック・バイオレンスへの「処方箋」を市民にわかりやすい明瞭な形で提示すること、本研究の目的はこれである。

1. ドメスティック・バイオレンスとは何か

 ドメスティック・バイオレンスは、ドメスティック・バイオレンス加害者の精神構造において、社会・文化的性としてのジェンダーが強く影響するものとしての「親密な関係の中で行われる女性抑圧」であり、女性の人間としての尊厳を著しく侵害する重大な人権問題と考えられる。

 ドメスティック・バイオレンスの定義は、「配偶者や恋人などの親密な関係者から受ける暴力」とされている。“Domestic”の日本語訳に「家庭内の」とあることから、「家庭内暴力」とする向きもあるが、そのように定義してしまうと、ドメスティック・バイオレンス法による恋愛関係において生じる「デートDV」[12]の救済が難しくなってしまう。ドメスティック・バイオレンスは決して家庭内のみで行われるものではないのである。

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 ドメスティック・バイオレンス被害者の圧倒的多数は女性である(約90%)。男性を被害者とするドメスティック・バイオレンスは「逆DV」と呼ばれる。ドメスティック・バイオレンス被害経験の割合は、女性で25.9%、男性で18.4%となっており、女性の割合が高いものの、男性の被害も存在している[13]。しかしながら、そもそも「逆DV」という言葉の「逆」という言葉から、「そもそもDVは女性を被害者とするもの」という大前提を看取することが出来るのではないだろうか。

 ドメスティック・バイオレンスの内容は、(1)身体的暴力、(2)精神的暴力、(3)性的暴力、(4)社会・経済的暴力という4種類によって構成されている。 

 身体的暴力の例としては、「平手やげんこつで殴る」、「突き飛ばす」、「蹴る」、「胸ぐらをつかむ」、「首をしめる」、「刃物などで刺す」、「その他」である。「その他」には、「髪を持ちふり回す」、「踏みつける」、「寝ているときに水をかけられる」、「引きずられる」、「階段から突き落とされる」、「逃げようとすると逃がさないように暴力をふるい、110番さえもできない」等が含まれる[14]

 精神的暴力の例としては、「罵る、中傷する」、 「物を壊す」、「暴力をふるうふ りをして脅す」、「殺す・死んでやるなどと脅す」、「大切な物・人・ペットを傷つける」、「その他」である。「その他」には、「いつもおまえが悪い。煮ても焼いてもこっちの勝手と言う」、「夫婦喧嘩中に姑が入ってきて息子の味方をする」、「子どもの前で汚いパパアだとか言う」、「子どもを楯にする」、「夜中に何時間もどなる」、「私の親、兄弟を非難する」、「道に寝転んで死ねと言う」、「食べること、寝ることが悪いことのように言われる」等が含まれる[15]

 性的暴力の例としては、、「望まないセックスを強要する」、「他人との性的関係にあるとほのめかす」、「不快な・屈辱的な性行為を強要する」、「避妊に協力しない」、「その他」である。「その他」の事例としては、「性行為を生理中で断ったら腹を立てた」、「中絶に協力をしないのに、中絶したら殺人者だと言われた」等がある[16]

 社会・経済的暴力の例としては、「仕事等の活動を制限する」、「外出を制限する」、「持ち物を勝手に点検する」、「手紙や電話を制限する」、「生活費を渡さない、家計の管理を独占する」、「その他」である。「その他」の事例には、「財布の中から勝手にお金をとる」、「職場に嫌がらせの電話をする」、「仕事をしろと言われる」、「仕事が思うようにいかないことを妻のせいにし、生活費、保育科を渡してくれない」などがある[17]

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2. ドメスティック・バイオレンスが生じる前提

 女性を被害者とするドメスティック・バイオレンスが多い背景には、加害者男性が、「身体的優位性」[18]「経済的優位性」[19]「意識的優位性」[20]からなる「3つの優位性」という考え方にコミットしていることを挙げることが出来る。

 しかし、「経済的優位性」については、例えばドメスティック・バイオレンス被害者である女性が専業主婦である場合、専業主婦の労働時間が1週間で平均91.6時間という、一般企業の平均就労時間の2倍以上の激務であり、オンとオフの区別がつき難い過酷なものであること、これを賃金換算すれば、相当の金額になること、そもそも男性が出勤して収入を稼ぐための様々な前提を、主婦である妻に整えてもらっており(食事、買い物、洗濯、清掃…)、男性はその助力あってこそ収入を稼ぐことが出来るということ(つまり、男性の収入は、男性1人のみの力によるものではなく、専業主婦である妻と協力して稼がれるものであるということ)を看過している、という批判を免れるものではない。

 また、「意識的優位性」については、憲法14条や、憲法24条「夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と矛盾する考え方であり、到底妥当ということはできない。これをめぐっては、社会・文化的性としての「ジェンダー」との関係が指摘されるべきであろう。

 1960年代後半以降に拡大した第二波フェミニズム[21]の運動と結びつく形で、1970年代に確立され、提唱された「ジェンダー」(社会・文化的性差)という概念は、「セックス」(生物学的性差)と対比して「社会的・文化的に構築された性別」を意味するものであった[22]。換言するならば、社会通念[23]によって構築された「男性らしさ」「女性らしさ」からの逸脱が許されず、非言語的行動も含む行動様式、服装、社会的役割、職業など、生に関するあらゆる側面がそれにより規制されるという社会のあり様[24]へのプロテストのために必要な視座であった[25]

 社会における女性と男性の関係については、「男尊女卑」という考え方が長らく「社会通念」とされてきた。戦前の家制度は、その最たるものであった。戦後、家制度は否定され、憲法14条、24条では、男女平等が明確に規定されたにもかかわらず、そのように誤った「社会通念」からいまだ脱却することが出来ない男性が、「意識的優位性」の考えに染まりながら、ドメスティック・バイオレンス加害者として女性に向き合っていると考えられる。このことから、ドメスティック・バイオレンスは、憲法14条、24条に違反する女性差別の問題として位置づけることが可能だ。

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 日本では、妻が他人に対して、自分の夫のことを「うちの主人が」という言い方を選ぶ場面が非常に多い[26]。しかしながら、「主人」という言葉には、上下関係、主従関係を表す意味がある。「夫」「旦那」「ツレ」「相方」など、色々な呼び方がある中で、憲法24条の「夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」という条文からすると、「主人」という表現には、相当に違和感を覚えざるを得ない。このような「主人」という表現が、実に多くの女性によって、深く考えられることなく選ばれてしまうところに、「男性優位という社会通念」の深刻さがあるのではないだろうか。

 それでは、どのようなパーソナリティーを有する者がドメスティック・バイオレンスの加害者になるのであろうか。ごく限られた特殊な人ではないのかと思う向きもあろうが、DV加害者の人物像については、「身近な、ごく普通の人」であることが少なくない。

 ドメスティック・バイオレンス加害者である男性は、「妻・子に対する支配意識」を持ち、「自分より格下とみなすパートナー」が自分に従属することを当然と考えることが多いと考えられている。ジェンダーの影響を色濃く帯びた「男性優位という社会通念」の影響を、ここにも認めることができるのだが、今時にあってこのような考え方を持つ人物は決して珍しく特殊なものではないのである。「ドメスティック・バイオレンス加害者は力の格差に敏感」であり、「会社の上司や警察、裁判官(自分よりも格上と思われる相手方)に対しては迎合する姿勢をとりつつ、自分の支配テリトリー内への干渉を防ぐために、「暴力を振るわない夫」を演じ、内面と外面を使い分ける」者が多いと考えられている。

 このことは、交際中はドメスティック・バイオレンスが表面化することがなかったのに、結婚後に暴力が表面化するパターンが少なくない中で、交際中の相手がドメスティック・バイオレンスに通じるパーソナリティーを持っているか否かを見分けることを可能にするものと考えられる。すなわち、「レストランなどで店員に対して横柄な態度をとるようなパーソナリティーは、常に人間関係の順位をつけて、自分より劣位にあると思われる相手に対しては、どのような態度をとってもよいと考える」ものであり、「DV加害者のパーソナリティーとの共通点」が認められると考えられるためである。

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3. ドメスティック・バイオレンスのメカニズム

 ドメスティック・バイオレンスによる被害の深刻さは、被害者が暴力に支配されながら、そこにとどまらざるを得ないことにある。恐怖を味わった被害者は、加害者の暴力の爆発を恐れて、相手の顔色をうかがいながら生活することを強いられる。自分の身を精一杯縮めて、刺激しないように、怒らせないように、神経を擦り減らすようになるのだ。暴力が行使される瞬間にとどまらず、暴力に怯える生活の継続もまた、重大な人権侵害であると考えることが重要である。

 ドメスティック・バイオレンス加害者に共通することとして、「加害意識の希薄さ」が挙げられている。「過小評価」[27]、「責任転嫁」[28]は、全世界共通の「言い訳(excuse)」である。

 私がかつて横浜地方裁判所で傍聴したドメスティック・バイオレンスに関わる訴訟では、強烈な印象を残す出来事があった。それは、法廷で「夫婦で揉めたけど、その直後に性行為をした。だから、すぐに仲直りをしている」などというドメスティック・バイオレンス加害者男性の言葉だ。暴力の末の性行為強要は、被害者からすれば虐待の仕上げに他ならず、これは驚くほどの加害意識の希薄さを表すものだ。被害者の心の痛みに鈍感なDV加害者のあり様が問題視されなければならない。

 また、ドメスティック・バイオレンスが生じる家庭の多くに子どもがいる。子どもも、妻と同様に自分に対する「従属者」であり、暴力の対象として位置づけられる。時には、妻に対する精神的な暴力手段として子どもを殴る者もいる。日常的に暴力が振るわれて、耐性がつき、なかなか泣かなくなり従属的な態度をとらなくなった妻の前で、子どもに暴力を振るうことにより、「子どもだけは勘弁して」と、妻が取り乱す姿を見ることが出来るというのだ。

 子どもにとって、母親は強い愛着と依存の対象であり、その母親に対する父親の暴力を日常的に目の当たりにすることは、深刻な精神的ダメージとなる。他者に対する信頼感を失い、暴力に寛容で、他者と対等で開かれた関係構築が困難になってしまうという、子に対する悪影響が生まれることもあるだろう[29]

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 それでは、以下において、「ドメスティック・バイオレンスの暴力のサイクル」に触れることとしよう。

 アメリカの心理学者であるレノア・E・ウォーカーは、ドメスティック・バイオレンス被害者の調査を通じて、ドメスティック・バイオレンスの暴力に3つのステージからなる加害者特有の心理サイクル[30]があることを発見し、「暴力のサイクル」[31]説を提示した。その理解はドメスティック・バイオレンスの理解にとって必須である。

 最初は、「緊張の蓄積期」から始まる。これは、ストレスが蓄積され、緊張が高まる時期である。日々のストレスを受けるのはドメスティック・バイオレンス加害者に限られるものではないが、これを暴力のエネルギーに転化する点にドメスティック・バイオレンス加害者の特殊性がある。

 ストレスを会社の上司や取引先に向けることなく(力の格差に敏感であるため)、帰宅して玄関扉を閉じたところで、妻や子どもを相手に爆発させるきっかけを探す。被害者は普段から敏感であり、その状況はすぐに察知され、暴力爆発を回避しようと懸命に気を遣うが、少々の先延ばしは出来ても、爆発自体を阻止することは出来ない。

 「暴力の爆発期」がこれに続く。これは、蓄積されたストレスの放出であり、暴力はストレスが放出され尽くすまで続く。被害者が謝ったら終わる、泣いたら終わるということはない。ドメスティック・バイオレンスによる暴力は、問題や争いごとの解決のために振るわれるものではないためである。反撃でもしようものなら、責任転嫁により、さらに攻撃の口実を与えることになってしまう。したがって、被害者は暴力の間、じっと耐えて身を守るしかない。

 最後に、「蜜月(ハネムーン)期」が到来する。暴力の末、ストレスを放出し終えた後、気が済んで気持ちの余裕を取り戻した加害者は、ここで被害者を失うのではないかという不安にかられ、一転して優しい態度をとる。暴力という恐怖ではなく、愛情という「蜜」で被害者を引き留めようとし、被害者、関係者の前で謝罪し、反省し、二度としないと誓約をする。被害者が戻ってくると、しばらくは優しく振舞うが、やがて、第1期「緊張の蓄積期」へと移行することになる。サイクルは回転し、次のサイクルへと移行する。

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 ドメスティック・バイオレンスの関係とは、パワーとコントロール(力と支配)の関係である。優位な立場にある加害者が、自分の力を利用し、弱い立場の被害者を支配することである。その背景に、女性への差別意識や家事役割意識、暴力を容認しがちな男性優位の社会のあり方があることについては既に先述した通りである。

 ドメスティック・バイオレンス加害者は、暴力の程度を、被害者を怖がらせてコントロールするのに必要なレベルに調節しており、基本的には被害者を殺そうなどとはしない。ドメスティック・バイオレンス加害者は、被害者である妻に強く依存しており、殺害するということは考えられないためである。しかし、サイクルが回転すると、「あの程度であれば関係修復は可能」と学習してしまい、暴力はエスカレートし、蜜月期は短くなっていくことがわかっている。ドメスティック・バイオレンスのダイナミズムにおける、激しい暴力と蜜月期が並存し、連続するものという構造を理解する必要がある。もし、あなたが将来、親しい者からドメスティック・バイオレンス被害を告白されて、加害者がドメスティック・バイオレンスについて謝罪するという場面に立ち会うことがある場合、次のことに注意が必要だ。

 一般的に、ドメスティック・バイオレンス被害者というものは、被害をなかなか打ち明けることが出来ない。「恥ずかしい」、「失敗した結婚生活を惨めだと思われたくない」、「心配をかけたくない」などという心理がその背景にあると考えられている。したがって、第三者がドメスティック・バイオレンスを知るのは、通常、すでに「暴力のサイクル」が何度か回った後のことであることが多いようだ。したがって、第三者が目にする加害者の謝罪は、それがどんなに迫真に迫るものであったとしても、すでに何度か繰り返され、そして破られていることが認識されなければならないのだ。

4. ドメスティック・バイオレンス解決の可能性と被害者保護

 加害者の反省や改心によるドメスティック・バイオレンスの解決は困難であると考えられている。先述したように、ドメスティック・バイオレンス加害者には「加害意識」が欠如しているためだ。それでは、被害者はどのように保護されるべきなのだろうか。問題はどのように解決されるべきなのだろうか。

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 被害者は、加害者のもとにいる限り暴力の支配下にあり続けるため、被害者を保護するためには、被害者が加害者のもとを離れることを機敏かつ的確に支援することが重要であると考えられている。

 被害者は、加害者のもとを去るときに最も危険な状態にある。加害者にとって、被害者が自分を捨てることは「裏切り行為」であり、「これまで欠点だらけの妻のあり様に対し、よく我慢してやった恩義への不当な反逆」として、強い怒りを覚える事例が少なくない。

 「被害者は、欠点だらけのくせに、身の程をわきまえず結婚生活に不満を抱き、こともあろうか、それを「主人」である夫のせいにして、恥をかかせている」。「このように浅はかな行為を二度と繰り返させないためにも、そして傷ついた自分の感情を埋め合わせるためにも、被害者を徹底して捜し出し、罰を与え、あらためて支配しよう」とする。この時に、被害者の安全を確保し、支援する必要性は、どんなに強調してもしすぎることはない。

 そのような必要があることを反映して、2001年になりようやく制定されたのが「配偶者からの暴力の防止および被害者の保護に関する法律」(DV防止法)である。この法律には、2つの柱がある。

(1)DV防止法の第1の柱:「安全確保」と「シェルター」

 加害者から離れるために住居を出た被害者にとって、決して避難先に選んではならない選択肢が、「実家」と「親友宅」である。加害者のもとを離れて、経済的負担を伴わないような形で(つまり無償で)しばらくの間、身を寄せることを理解してくれるような親友宅の場所は、加害者には当然知られていると考えるべきである。実家については多言を要しないであろう。法的レベルにまで至ってしまうドメスティック・バイオレンス加害者は、被害者を執拗に追跡してくるため、「実家」と「親友宅」に避難してはならないのである。

 しかし、十分な資金もなく、子どもを連れていることの多い被害者にとって、「実家」と「親友宅」のほかに、ドメスティック・バイオレンス加害者に知られておらず、安心して身を寄せる場所があることは非常に稀であろう。そこで、ドメスティック・バイオレンス防止法は、このような見地から「安全確保」のために「シェルター」を用意している。

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 すべての都道府県に設置されている「配偶者暴力支援センター」が、ドメスティック・バイオレンス防止法に基づく保護を求めるための窓口だ。相談、心理的ケア、一時保護、自立支援など、ドメスティック・バイオレンス保護を総合的に支援してくれる機関である。支援センターでは、ドメスティック・バイオレンスの被害から逃れるための「シェルター」が用意されており、1ヶ月間無償で使用することが出来る。

 「シェルター」といえば、核戦争用に地下に建造されたもの・・・というイメージを持つ向きがあるかもしれないが、ドメスティック・バイオレンス防止法が用意する「シェルター」は、一般的な集合住宅である。外から見て、それが「シェルター」であると、わかるような特徴は一切ない。ただし、その所在地は非公開であり、どんなに検索をしてもその情報を得ることはできない。

 この「シェルター」は、公営のものは無償だが、現在ではドメスティック・バイオレンス被害者の数が多いため、公営「シェルター」が満員という状況が多く、その場合は民営「シェルター」[32]が斡旋されることになる。

 また、加害者のもとを離れる際、加害者による追跡をブロックするために、次の届け出を関係機関に提出する必要がある。

  1. 「ドメスティック・バイオレンス防止法による住民票の交付制限手続」:加害者による住民票請求を拒否することが出来る。1年間有効であり、延長が可能。
  2. 「ドメスティック・バイオレンス防止法による捜索願制限手続」:警察署で申請することにより、加害者による被害者の捜索願は受理されなくなる。日本の警察は優秀なので、捜索願で見つけられてしまうことのないよう、必ず警察署で手続をとることが必要。
  3. 「区域外就学と情報漏洩防止」:ドメスティック・バイオレンス被害により、住民票を異動していなくても区域外の学校に子どもを通学させることが出来る。また、ドメスティック・バイオレンス防止法23条1項により、職務関係者は被害者の安全確保、秘密確保配慮義務を負うこととなり、夫による転校先の問い合わせへの回答をブロックすることが出来る。ただし、シェルター入居期間中は、学齢期の子どもであっても通学は不可となる。
  4. 「加害者の扶養を外れて新たに国民健康保険に加入」:加害者の職場の健康保険組合に、受診先から医療費請求情報が流れてしまい、病院で待ち伏せされるという事態を防ぐため、加害者の扶養を外れて新たに国民健康保険に加入することが必要である。
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  6. 「保護命令を出してもらうこと」:加害者が執拗に追跡をしてくる場合は、ドメスティック・バイオレンス防止法10条に基づき、「保護命令」を出してもらうことが出来る。「保護命令」とは、加害者と被害者の間に距離を確保して、ドメスティック・バイオレンスを防止するというもので、その典型は「接近禁止命令」である。加害者がこれに違反して被害者に接近すると、刑事罰(1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金)が科される。ただし、「接近禁止命令」には限界があることも憶えておく必要がある。24時間、被害者に警護がつくというものではなく、違反して接近すれば事後的に刑事罰が科されるというものであり、「吉野川ドメスティック・バイオレンス殺害事件」では、加害者は接近禁止命令に違反する形で被害者を殺害している。過信せず、加害者との距離の確保に注意を払うことが必要だ。

 法的レベルにまで至るドメスティック・バイオレンスの場合は、加害者の反省による解決が困難である以上、被害者が離婚を望むことが少なくない。加害者側が被害者による離婚の申出(協議離婚)に応じない場合は、「離婚調停」を経て「離婚訴訟」を利用することが出来る。民法770条1項には、5つの「法定離婚事由」が定められており、5「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」の中に「DV」が含まれている。もっとも、加害者側はDVの事実を認めないことがあるので、暴力を振るわれた場合は、病院で診察を受ける前に、患部の写真撮影や音声の録音など、訴訟で争うための証拠を揃えることも必要だ。

 離婚では、慰謝料や財産分与については夫婦間でそれほど争いがない場合でも、子どもの親権をめぐっては大変な争いになることがある。ドメスティック・バイオレンスの場合、子どもの親権は被害者である妻の側に認められるだろうと思われがちだ、訴訟で決定打となるのは、別居後の子どもの「養育実績」の有無(どちらが子どもを養育してきたか)である。ドメスティック・バイオレンスを理由とする離婚は、妻が子どもを連れて家を出るフェイズから始まるが、その後、夫が子どもを連れ去ることもあるため、その場合は、早急に子どもの身柄を確保する必要がある。

(2)DV防止法の第2の柱:「自立支援」

 第1の柱「安全確保」におけるシェルターには、1ヶ月間身を寄せることが出来るが、その後はどうすればよいのだろうか。とくに重要となるのが、夫の収入に頼ることなく、女性が自分自身の手で生活を営むことが出来るための「自立」である。ドメスティック・バイオレンス防止法は、安全確保に続く第2の柱として「自立支援」のための施策を打ち出しており、「母子生活支援施設」を利用に供している。これには家賃負担がなく、無償で3年間まで利用可能である。保育所が併設されているため、女性は子どもを安心して預けることが出来、資格取得のため専門学校などに通い、新生活の準備を進めることになる。

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 「母子生活支援施設」は、社会福祉士が介護実習を行う場のひとつである。実習では、施設に併設された保育所に配属される、各世帯の部屋には、例え子どもから誘われても、決して立ち入ってはならないことが定められている。写真撮影も厳禁とされている。実習初日、実習生は、「子どもが子どもらしく、自分の気持ちを母親に素直に伝えられるよう、子どもの背中を後押ししてあげて下さい」と指示を受けて実習に臨むことになる。

 ドメスティック・バイオレンスによる被害で、加害者としての父親から逃れてきた子どもたちは、母親にまで見放されてしまったら、という怖れの感情からの遠慮が働き、不満や要望があっても、それを母親にストレートに伝えることに躊躇してしまう傾向にあることが少なくない。ドメスティック・バイオレンス加害は、女性である妻にとどまらず、幼い子どもの心にも深く影響を及ぼすものと考えられる。

 ドメスティック・バイオレンス防止法の第1の柱「安全確保」だけでは、被害者女性の「自立」は困難である。ドメスティック・バイオレンス防止法は、2つの柱をいずれも重要なものとすることにより、被害女性の保護を図っている。

(3)妻による「性交応諾義務」違反は離婚訴訟でドメスティック・バイオレンス加害者を有利にするか-配偶者間での強姦を成立させた裁判例

 妻による「性交応諾義務」違反は、離婚訴訟でドメスティック・バイオレンス加害者を有利にするだろうか。

 刑法177条は、かつては「強姦罪」[33]という罪名のもと、「暴行または脅迫を用いて、相手[34]を姦淫すること」を禁ずる条文である。「姦淫」とは不正・不道徳な性交を意味するため、夫婦間に「姦淫」はあり得ないこと、夫婦は相手に性交渉を要求する権利があること[35]から、夫婦間に強姦罪が成立する余地はないと考えられてきた。

 夫婦の性交渉について、性交の拒否または不能が離婚事由として法的に認められている。裁判所は、夫婦の性生活につき婚姻の基本となるべき重要事項であると指摘し、婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)があるとして、妻からの離婚請求を認めている(最高裁1962年2月6日判決)。また、夫が、自分が性的不能であることを告げずに結婚し、約3年半の同居期間中に性交渉がなかった事案で、妻からの離婚を認めた裁判例もある(京都地裁1987年5月12日判決)。

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 ドメスティック・バイオレンスをめぐる訴訟では、加害者男性により、ドメスティック・バイオレンスの原因として「妻が性交応諾義務に応じないこと」が挙げられ、妻の側にも夫婦間の義務を果たさないという責任があるために、DV損害賠償金額の縮減が求められる、という展開の可能性が考えられる。しかし、日常的に暴力を振るわれ、夫婦関係が実質的に破綻している場合においてまで、妻は「性交応諾義務」を果たさなければならないのであろうか。もし、そのような結論に至るとすれば、妻の側の人間の尊厳を満たすための自己決定権は存在しないと言わざるを得ないだろう。このような「義務」を履行しなかったことを理由として、DV加害の損害賠償金額を相殺されてしまうことは、妥当とは考えられない。

 婚姻中の夫婦が、互いに性交渉を求めかつこれに応ずべき関係にあることを前提としながら、「婚姻中」とは実質的に婚姻が継続していることを指し、法律上は夫婦であっても、婚姻が破綻して夫婦たるの実質を失い名ばかりの夫婦にすぎない場合には、夫婦間に所論の関係はなく、夫が暴行又は脅迫をもつて妻を姦淫したときは強姦罪が成立することを認めた判例がある。以下で引用しておこう。

広島高等裁判所松江支部判決 昭和62年6月18日(上告取下げ・確定)[36]

1 事案の概要

 被害者の夫である被告人が、被告人の暴力をおそれて実家に逃げ帰っていた被害者を強引に連れ帰る途中、友人と共謀の上、自動車内において、それぞれ姦淫したという事案である。1審(鳥取地判昭61.12.17)は、被告人らについていずれも強姦罪の成立を認め、被告人側が控訴していた。

2 判決文(抜粋)

 被告人につき強姦罪の成立を認めた原判決に対し、被告人は次のように主張した。

 「すなわち、被告人と被害者B子は犯行当時夫婦であり、夫婦は互いに性交を求める権利を有しかつこれに応ずる義務があるから、夫が妻に対し暴行・脅迫を用いて性交に及んだとしても、暴行・脅迫罪が成立するは格別、性交自体は処罰の対象とならないため強姦罪の成立する余地はない。また夫が第三者と共同して妻を輪姦した場合であっても、夫自身は妻に対する関係においては強姦罪の主体となりえない以上、従犯あるいは暴行罪として処罰されるに過ぎない。したがって原判決にはこの点につき刑法一七七条の適用(解釈)の誤りがあり、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決は破棄を免れない、というのである。

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 被告人と被害者B子は、昭和56年12月18日に婚姻届を提出して夫婦となつた。しかし被告人は働くことを嫌い、妻を扶養するでなく、その人格を無視して単にこれを性の対象として弄び、気に入らないと殴る蹴るの暴行を加えて常にこれを虐待し、その振舞たるやまさに常軌を逸し言語に絶するものであつたこと、その結果、妻B子は、夫の虐待から逃れるため実家に逃げ帰り、あるいは他所に身を隠し、ときには自殺まで試み、その都度夫に連れ戻されては隙を見ていくたびか家出を繰り返し、ひたすら婚姻生活に復帰することを拒み、本件当時両名の婚姻関係は完全に破綻し両名はすでに夫婦たるの実質を失っていたこと、しかるに被告人は、原判示第一のとおり、自分の遊び仲間である共犯者Aと2人で暴力を用いて妻をその実家から無理矢理連れ出し自宅に連れ帰る途中、Aと共謀のうえ、同女を輪姦しようと企て、白昼人里離れたAにおいて、同女に対し暴行を加えてその反抗を抑圧したうえ、こもごも同女を強いて姦淫したものであることが認められる。婚姻中夫婦が互いに性交渉を求めかつこれに応ずべき所論の関係にあることはいうまでもない。

 しかしながら、右「婚姻中」とは実質的にも婚姻が継続していることを指し、法律上は夫婦であっても、婚姻が破綻して夫婦たるの実質を失い名ばかりの夫婦にすぎない場合には、もとより夫婦間に所論の関係はなく、夫が暴行又は脅迫をもつて妻を姦淫したときは強姦罪が成立し、夫と第三者が暴力を用い共同して妻を輪姦するに及んだときは、夫についてもむろん強姦罪の共同正犯が成立する。してみれば、先に認定したとおり婚姻が完全に破綻して夫婦たるの実質を失いいわば名のみの夫婦にすぎない被告人と被害者B子の場合において、被告人の原判示第一の所為が刑法177条前段、60条に該当するとした原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の法令適用の誤りはない」

第2 東京高等裁判所判決 平成19年9月26日(破棄自判・確定)[37]

1 事案の概要

 被害者の夫である被告人が、家事調停により別居していた被害者に対し脅迫を加えて姦淫したという事案。一審(千葉地八日市場支平19.5.29 )は、被告人について強姦罪の成立を認め、、被告人側が控訴していた。

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2 判決文(抜粋)

 「法律上の夫が、妻に暴行脅迫を加えて姦淫した事案に強姦罪が成立するかについて、学説上争いがあり、無条件にこれを肯定する説、無条件にこれを否定する説(所論は、これによっている)、夫婦関係が実質的に破綻している場合にこれを肯定する説が存在する。

 そこで検討するに、強姦罪の構成要件は、その対象を女子と規定しているだけであり、婚姻関係にある女子を特に除外していない。しかるに、無条件でこれを除外して強姦罪の成立を認める説は、構成要件の解釈としては無理がある。そこで、婚姻中の夫婦は、互いに性交渉を求め、かつ、これに応ずべき関係にあることから、夫の妻に対する性交を求める権利の行使として常に違法性が阻却されると解することも考えられる。

 しかし、かかる権利が存在するとしても、それを実現する方法が社会通念上一般に認容すべきものと認められる程度を超える場合には、違法性を阻却しないと解される。そして、暴行・脅迫を伴なう場合は、適法な権利行使とは認められず、強姦罪が成立するというべきである。いかなる男女関係においても、性行為を暴行脅迫により強制できるものではなく、そのことは、女性の自己決定権を保護するという観点からも重要である。いわゆるドメスティック・バイオレンスの実態がある場合には、強姦罪の成立も視野に入れなければならない。

 もっとも、こう解すると、通常の婚姻関係が維持されているなかで、例えば、偶々妻が、気が乗らないという理由だけで性行為を拒否したときにも、夫に刑が重い強姦罪が成立することになり、刑法の謙抑性の観点から問題があるという批判もあり得ようが、そのような場合に、そのことが妻から訴えられるということも考えにくく、あくまで理論的な問題にとどまるともいえる。

 ところで本件においては、前記のように、被告人と被害者とは別居し、子供は被害者が養育し、被告人が養育費を月額で支払うことなどを定める調停が成立しており、さらに、同調停成立以降、被害者は、被告人と歩み寄る努力をし、別居を継続しながらも、時々は被告人宅に泊まり、嫌々ながらも性交渉に応じたものの、少なくとも、平成19年1月には、被告人との離婚の意思を以前にも増して強く持ち、再度調停を申し立て、同月 21 日には被告人に対して離婚する意思をきちんと伝えたこと、被告人も、被害者の態度から、被害者と復縁を果たすことは難しいことに気付き、調停の第 1 回期日で、離婚を成立させてもやむを得ないと考えるに至っていることなどの客観的な事情もある。

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 すなわち、被告人と被害者との婚姻関係は、本件当時、実質的に破綻していたことが客観的にも認められることになる。同調停の成立により夫婦の間での同居の義務はなくなったから、その後の事情もあわせ考慮すれば、本件当時においては、夫として別居している妻に対して性交を求める権利もなくなったというべきである。そうすると、権利行使を理由とする違法性阻却の余地はなく、強姦罪が成立するという説明も可能である。本件は、実質的な破綻状態を要件とする説によっても、強姦罪が成立することになる。被告人に強姦罪が成立するとした原判決には、何ら法令適用の誤りなく、論旨は理由がない。」

 日常的に暴力を振るわれるドメスティック・バイオレンスの被害者にとって、その婚姻関係は、「婚姻が破綻して夫婦たるの実質を失い名ばかりの夫婦にすぎない場合」であると考えることが出来る。したがって、仮にドメスティック・バイオレンス加害者側から、裁判で争っても慰謝料はとれないとか、妻の側こそが慰謝料を払わなければ離婚は出来ないなどとし、離婚を思いとどまるよう脅迫されたとしても、そのようなことは決してあり得ないこと、現在においては、夫婦間においても強姦罪(強制性交等罪)が成立することが判例上確立されていることを確認しておく必要があろう[38]

5. 結語

 テレビのトレンディドラマ等では、恋愛が成立してそこでハッピーエンド、という筋書もある。しかし、結婚とは2人の新たな人生の出発点であり、決してゴールではない。それまでの数十年間を異なる文化や価値観のもとで生活してきた2人のパートナーが、結婚生活において関係破綻に陥り、婚姻関係の解消に至ることも少なくないのが現状だ。

 離婚原因として身体的・精神的な暴力を挙げている人の割合は、女性の側で33%を数えている。その内訳は、「身体的暴力のみ」という回答が3.1%、「精神的暴力のみ」という回答が20.6%、「身体的暴力および精神的暴力」という回答が9.3%となっている[39]。このような数字から、女性を被害者とするDVが、特殊で珍しいなものでは決してなく、ありふれた深刻な事例であることがわかる。「親密な関係者間における女性抑圧」としてのドメスティック・バイオレンスについて、憲法14条、24条に反する人権問題であるという認識[40]が、より多くの市民に共有されることを願ってやまない。

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  1. 正式な法律名は、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」。詳細については、岩井宜子「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」法学教室251号(2001年)、寺山洋一「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律の概要」法律のひろば54巻9号(2001年)、堂園幹一郎「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律における保護命令制度の解説」法曹時報53巻10号(2001年)、戒能民江『ドメスティック・バイオレンス防止法』(2001年)の参照を請う。海外では、ドメスティック・バイオレンスに対する保護法が1980年代から制定されており、日本がその人権水準に達するまでに20年を要したことについて、松田聰子「ドメスティック・バイオレンス 防止法と日本国憲法」桃山法学7号(2006年)11 - 12頁参照。 ↩︎
  2. 湯澤直美「ドメスティック・バイオレンス防止法のインパクトと社会政策」社会政策学会誌15巻(2006年)。↩︎
  3. 同上、174頁。↩︎
  4. 近藤弘「男女共同参画社会とはどのような社会か」立教大学ジェンダーフォーラム年報11巻(2009年)参照。↩︎
  5. 利谷信義「日本における女性政策の発展」ジェンダー研究1号(1998年)67頁。↩︎
  6. 辻村みよ子『女性と人権』(日本評論社、1998年)参照。↩︎
  7. オリヴィエ・プラン(辻村みよ子訳)『女の人権宣言』(岩波書店、1995年)。↩︎
  8. 利谷、前掲註5、67頁。↩︎
  9. 中里見博「ポスト・ジェンダー期の女性の性売買-性に関する人権の再定義」社會科學研究58巻2号(2008年)40頁。↩︎
  10. 同上。↩︎
  11. 瀬川晃「ドメスティック・バイオレンスの法的規制」同志社法学54巻3号(2002年)49 - 67頁に詳しい。↩︎
  12. - 51 -
  13. 赤澤淳子・竹内友里「デートDV における暴力の構造について-頻度とダメージとの観点から」福山大学人間文化学部紀要15巻(2015年)51 - 69頁。↩︎
  14. 内閣府「男女間における暴力に関する調査(令和3年度調査)」2021年。↩︎
  15. 誉田貴子、友田尋子、坂なつ子、玉上麻美「DV(ドメスティック・バイオレンス)被害の実態と子どもへの影響に関する調査研究 : DV 被害者とその子どもへの暴力内容と心身への影響」大阪市立大学看護短期大学部紀要3巻(2001年)29頁。↩︎
  16. 同上、29頁。↩︎
  17. 同上、29頁。↩︎
  18. 同上、30 頁。↩︎
  19. 概して、女性よりも男性の方が、身体的に屈強であることが多いため。↩︎
  20. 家庭と仕事の両立が難しい女性にとって、正規雇用から一度離職してしまうと、なかなか正規雇用に戻ることが出来ず、収入の多くを男性に頼ることから、「男性の方が優位」という偏見を抱く男性が多いため。↩︎
  21. 「そもそも男性の方が女性よりも優位にある」という偏見を抱く男性が多いため。↩︎
  22. フェミニズムの第一波は、市民権としての男女平等(参政権、財産権、教育を受ける権利など)や女性の労働参画などを軸に拡大するというものだったが、第二波フェミニズムは、日常生活も含む私たちのものの見方、考え方、振る舞い方の中に潜む性差別=男性優位の仕組み(「家父長制」)を告発し、その撤廃を主張した点で新しい動きを示した。伊藤公雄「変容するGender概念-社会科学とGendered Innovation(性差研究に基づく技術革新」学術の動向23巻12号(2018年)44頁。↩︎
  23. 上谷香陽「ジェンダー概念の再考 - セックスとジェンダーの区別をめぐって」文教大学国際学部紀要20巻2号(2010年)3頁。↩︎
  24. 「男らしさ」「女らしさ」として共有される構造化された通念は、「特定の社会的カテゴリーに属する人々の極端な一般化としてのステレオタイプ」とは異なる。Richard A. Lippa, Introduction to Social Psychology, Belmont: Wadsworth, 1999, p.46.↩︎
  25. Ibid., pp. 112-115. ↩︎
  26. - 52 -
  27. 高井範子・岡野孝治「ジェンダー意識に関する検討-男性性・女性性を中心にして」太成学院大学紀要11巻 (2009)、61-62頁。↩︎
  28. 例えば、2020年6月12日、アンジャッシュ・渡部建の浮気報道に対し、妻の佐々木希は、自身のインスタグラムで「この度は、主人の無自覚な行動により多くの方々を不快な気持ちにさせてしまい、大変申し訳ございません」と謝罪のコメントを示している。↩︎
  29. 「こんなことは暴力に入らない」、「ちょっと押しただけ」等という認識。↩︎
  30. 「仕事で疲れているのに、妻が自分の神経を逆なでして怒らせた」、「興奮する妻を鎮めるために引っぱたいただけ」等という認識。↩︎
  31. 子ども対するドメスティック・バイオレンスの影響としては、加害者から直接暴力をふるわれることによる怪我、被害者に対する暴力を見たり聞いたりすることによって発症するPTSD等の症状、攻撃的・破壊的な行動をとるパーソナリティーの顕現化、抑うつや自殺企図、不登校、摂食障害の症状等の影響が確認されている。さらに、加害者の行動や発言を通して人間関係の作り方や手段としての暴力を学ぶことにより、将来加害者と同じような行動・発言を繰り返す「暴力の世代間連鎖」の危険性、加害者からのみならず被害者から暴力をふるわれる可能性も指摘されている。渡邉明日香・藪長千乃「DVが子どもに与える影響と支援のあり方に関する一考察」文京学院大学人間学部研究紀要9巻1号(2007年)311 - 312頁。↩︎
  32. Heavy Wallace, Cliff Roberson , Victimology: Legal, Psychological, and Social Perspectives, Hoboken, New Jersey: Prentice Hall, 1998, p.150.↩︎
  33. レノア・E・ウォーカー(穂積由利子訳)『バタードウーマン』(1997年)60頁以下参照。↩︎
  34. 民間支援団体によるもの。若干の利用料がかかる。↩︎
  35. 2017年に「強制性交等罪」という罪名に改められ、処罰範囲の拡張や、法定刑の引き上げが行われた。↩︎
  36. 女性に限らず男性も含む。↩︎
  37. 「性交応諾義務」による。↩︎
  38. - 53 -
  39. 広島高等裁判所松江支部昭和62年6月18日判決[強姦、傷害被告事件](高等裁判所刑事判例集40巻1号71頁)↩︎
  40. 東京高等裁判所平成19年9月26日判決[強姦、傷害被告事件](東京高等裁判所判決時報刑事58巻1~12号86頁)↩︎
  41. 海渡双葉「夫婦間レイプの刑事法上の位置付け」Law and Practice, 6号(2012年)227 - 253頁参照。↩︎
  42. 男女共同参画局「協議離婚制度に関する調査研究業務」令和2年度法務省委託調査研究(2020年)。↩︎
  43. 松田、前掲註1参照。↩︎
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